
お手元の受取手形をすぐにでも現金化したいけれど、「結局いくら手元に入るのか」「そもそも自社はいくらまで割引してもらえるのか」が分からず、一歩を踏み出せないでいるかもしれません。
手形割引は、急な資金需要に応えてくれる心強い手段ですが、その計算方法や利用できる「枠」の決まり方は少し複雑です。
この記事では、手形割引の専門知識がない方でも理解できるよう、受取額の計算方法から金融機関が設定する極度枠の仕組みまで、図や表を交えて解説します。
手形割引とは、支払期日がまだ先の約束手形を、銀行や手形割引専門業者に買い取ってもらうことで早期に現金化する資金調達方法です。期日までの利息に相当する「割引料」が手形の額面金額から差し引かれ、その残額が支払われます。
法律上は手形の売買ですが、実態としては手形を担保にした短期融資に近い性質を持っています。そのため、もし手形の振出人(支払人)が倒産などで支払えなくなった場合(不渡り)、手形を割り引いた側が金融機関にお金を返す義務を負います。
手形割引とよく似た資金調-達方法に「ファクタリング」があります。これは売掛債権(請求書)を買い取ってもらうサービスですが、最も大きな違いは「買い戻し義務」の有無です。
手形割引では、手形が不渡りになると買い戻し義務が発生します。一方、一般的なファクタリングでは、売掛先が倒産してもその責任を負う必要はありません。
| 項目 | 手形割引 | ファクタリング |
|---|---|---|
| 対象資産 | 約束手形 | 売掛債権(請求書) |
| 仕組み | 手形を担保とした融資 | 売掛債権の売買 |
| 買い戻し義務 | あり(不渡り時) | なし(償還請求権なしの場合) |
| 審査の主な対象 | 手形の振出人 + 割引依頼人 | 売掛先(取引先) |
| 手数料/割引料 | 比較的低い傾向 | 比較的手数料が高い傾向 |
手元に入る金額(受取額)は、簡単な3つのステップで計算できます。ここでは、誰でも計算できるよう、順を追って解説します。
| 手形額面金額 | 1,000,000円 |
|---|---|
| 割引率(年率) | 3.0% |
| 割引日数 | 90日 |
| 割引料(自動計算) | 7,397円 |
| 受取額(自動計算) | 992,603円 |
まず、金融機関に支払う手数料である「割引料」を計算します。計算式は以下の通りです。
「割引日数」とは、手形を現金化する日から、手形の支払期日までの日数のことです。
| 計算例 | |
|---|---|
| 手形額面金額 | 3,000,000円 |
| 割引率(年率) | 2.5% |
| 割引日数 | 60日 |
| 計算式 | 3,000,000円 × 2.5% × 60日 ÷ 365日 |
| 割引料 | 12,328円 |
次に、算出した割引料を手形の額面金額から差し引きます。これが、最終的に手元に入金される金額(受取額)です。
上記の例で計算すると、以下のようになります。
割引料を計算する上で最も重要なのが「割引率」です。これは金融機関の審査によって決まり、依頼先によって大きく異なります。
一般的に、審査が厳しい銀行は割引率が低く、審査が柔軟な手形割引専門業者は高くなる傾向があります。
| 依頼先 | 割引率の目安(年率) | 特徴 |
|---|---|---|
| 都市銀行・地方銀行 | 1.5% ~ 4.0% | 審査が厳格で時間がかかるが、金利は低い。取引実績が重要。 |
| 信用金庫 | 2.0% ~ 5.0% | 地域密着型で、比較的相談しやすい。取引実績が評価されやすい。 |
| 手形割引専門業者 | 4.0% ~ 15.0% | 審査がスピーディで柔軟。銀行で断られた手形も扱える場合がある。 |
手形割引を継続的に利用する場合、金融機関は「極度枠」という利用限度額を設定します。この枠内であれば、毎回厳しい審査を経ずに、スムーズに手形を現金化できます。この極度枠がどのように決まるのかを知ることは、安定した資金繰りのために非常に重要です。
極度枠の基本となる金額は、企業の事業規模や取引実態を示す客観的な数値から算出されます。計算式は以下の通りです。
それぞれの項目を理解すれば、自社の極度枠を大まかに予測できます。
| 要素 | 内容 | 自社の数値の確認方法 |
|---|---|---|
| 平均月商 | 年間の売上高を12で割った、1ヶ月あたりの平均売上高です。 | 決算書や試算表の売上高を確認します。 |
| 手形比率 | 全売上のうち、手形で回収している金額の割合です。 | 売掛金の回収データから、手形での入金額と全体の入金額を比較します。 |
| 手形サイト | 手形の振出日から支払期日までの平均的な期間(月数)です。 | 保有している手形のサイトを確認し、平均値を算出します。 |
計算例
上記の計算式で算出されたのは、あくまで基本額です。最終的な極度枠は、この基本額に加えて、以下の2つの「信用力」の評価によって調整されます。
金融機関はこれらの信用力を総合的に判断し、基本額を増額したり、逆に減額したりします。
| 評価対象 | 主な評価項目 | 枠への影響 |
|---|---|---|
| 手形の振出人 | - 過去の不渡り履歴 - 財務状況(業績、自己資本比率など) - 信用調査会社の評点 |
信用力が高いほど、枠は増額されやすくなります。 |
| 割引依頼人(自社) | - 自社の財務状況(収益性、キャッシュフローなど) - 借入状況や返済履歴 - 金融機関との取引実績 |
買い戻し能力が高いと判断されれば、枠は維持・増額されやすくなります。 |
手形割引は便利な手段ですが、利用を決定する前にメリットとデメリットの両方を理解しておくことが大切です。自社の状況と照らし合わせ、最適な選択かを見極めましょう。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ① 早期に現金化できる 数ヶ月先の入金をすぐに事業資金に充てられます。 |
① 割引料がかかる 額面金額を満額受け取れるわけではありません。 |
| ② 融資より審査ハードルが低い 主に振出人の信用力が重視されるため、自社の業績が芳しくなくても利用できる場合があります。 |
② 不渡りリスクがある 手形が不渡りになった場合、全額を買い戻す義務を負います。 |
| ③ 金利が比較的低い 銀行で利用する場合、ビジネスローンなどより低い金利で資金を調達できる可能性があります。 |
③ 分割での現金化ができない 手形は基本的に分割できないため、必要な金額だけを調達することが難しい場合があります。 |
手形割引の最大のメリットは、支払期日を待たずに運転資金を確保できる点です。急な支払いや仕入れ資金が必要になった際に、迅速に対応できます。
また、審査では手形を振り出した企業の信用力が重視されます。そのため、自社の決算内容に不安がある場合でも、信用の高い企業が振り出した手形であれば、割引に応じてもらえる可能性が高まります。
デメリットとして、割引料というコストが発生し、手形の額面金額より受け取れる現金が少なくなる点が挙げられます。資金繰りの計画を立てる際は、このコストをあらかじめ織り込んでおく必要があります。
そして、最も注意すべきなのが「不渡りリスク」です。万が一、振出人が倒産して手形が決済されなかった場合、金融機関に代金を全額返済しなければなりません。これは資金繰りを大きく圧迫する可能性があるため、振出人の信用力を見極めることが非常に重要です。
安定した経営のためには、必要に応じて利用できる資金調達の選択肢を確保しておくことが重要です。手形割引の極度枠を維持、あるいは増額するためには、日頃からの取り組みが欠かせません。
以下の3つのポイントを意識することで、金融機関からの信頼を高め、より有利な条件を引き出しやすくなります。
自社の業績・財務内容を改善する
・収益性を高め、健全な財務体質を維持することが基本です。
・定期的に試算表を作成し、経営状況を正確に把握しましょう。
信用力の高い取引先との取引を増やす
・金融機関からの評価が高い企業の振出の手形は、割引がスムーズに進みます。
・新規取引先の与信管理を徹底することも重要です。
金融機関との良好な関係を構築する
・決算書や事業計画などを定期的に提出し、自社の状況を積極的に開示しましょう。
・透明性の高い経営姿勢は、金融機関からの信頼につながります。
手形割引は、受取手形を早期現金化し、資金繰りを安定させるための有効な手段です。今回解説した受取額と極度枠の計算方法を理解することで、より計画的に資金調達を進められるようになります。
手形割引を利用する際は、メリットだけでなく不渡りなどのリスクも十分に理解することが大切です。なお、政府は2026年を目途に約束手形を廃止する方針を示しており、今後は電子記録債権(でんさい)への移行が進んでいきます。
将来の資金調達環境の変化にも備えつつ、まずはこの記事を参考に、お手元の手形がいくらになるのかを計算してみてはいかがでしょうか。
お役立ちリンク集
【手形 裏書】
◆裏書ができる手形の種類は?
| ◆裏書のある手形を譲渡する「裏書譲渡」とは
◆手形の裏書に使用できる印鑑は?
| ◆手形の裏書を間違えてしまった場合の訂正方法
◆手形の裏書の正しい書き方
| ◆手形の裏書の連続とは
◆手形の裏書の日付の書き方
|◆手形の裏書の仕訳とは?
◆手書きの裏書の補箋はどの時点でつけるべき?
| ◆手形の裏書とは
◆手形の裏書がいっぱいになってしまった場合の対処法
| ◆手形の裏書が悪用されてしまった場合の対処法は?
◆手形の裏書が持つ意味は?
| ◆手形の裏書が失敗とみなされる印鑑の押し方
◆手形の裏書の印鑑を押し直しする場合の注意点
| ◆手形の裏書の印鑑が不鮮明な場合は注意が必要
◆手形の裏書を訂正する場合の印鑑の押し方
| ◆印鑑なしの手形裏書の効力は?
◆手形の裏書の「指図人」とは?
| ◆手形の裏書の遡求とは?
◆手形の白地式裏書とは?
| ◆手形の裏書の受取人の記載について
◆鉛筆で書かれている手形の裏書の注意点
| ◆手形の裏書で注意したい英語表記について
◆手形の裏書の正しい押印の仕方
| ◆手形の裏書の遡及権とは?
◆手形の裏書に角印は使用してよいか
| ◆手形の裏書の被裏書人の書き方
◆書き損じてしまった手形の裏書の扱い方
| ◆失敗しない手形の裏書のチェックポイント
◆為替手形とは
| ◆裏書がある手形を受けとる際の確認ポイント
◆裏書した手形の買戻しとは?
| ◆手形の裏書に手書きする「記名」の効力とは?
◆手形の裏書を使う場合の注意点
| ◆危険性のある裏書などのリスクの高い手形の見分け方
◆手形の裏書の記入例と注意点
| ◆手形の裏書禁止裏書とは?
◆手形の裏書の支払い期日の扱いについて
| ◆手形の裏書の求償権とは
◆手形の期限後裏書とは?
| ◆手形の裏書の拒絶証書とは?
◆手形の裏書に空欄がある場合、支払いへの問題は?
| ◆手形の裏書の被裏書人欄が空欄の場合の扱い方
◆手形の裏書譲渡の決済とは?
| ◆手形の裏書の抹消とは?
◆手形の裏書の持つ効果について
| ◆手形の裏書が個人名だった場合の支払いについて
◆裏書のある手形を受け取る際の個人保証について
| ◆個人事業主が裏書がある手形を受け取った場合の処理方法
【手形割引】
◆手形割引とは?仕組み・メリット・デメリット・計算方法まで徹底解説【2025年最新版】
| ◆手形割引料(手数料)と計算方法について
◆約束手形の決済期限が120日から60日に改正!対応が必要な理由
◆手形割引の仕訳を解説
| ◆手形割引とファクタリングの違いについて
◆手形割引のメリットとデメリット
◆手形割引の会計処理と仕訳方法とは
| ◆手形割引料の意味とは?金融機関と手形割引業者の手数料の違い
◆優良な手形割引業者を見つけるときのポイント
| ◆手形割引率の計算方法と相場について
◆手形割引の支払い金利の種類と計算方法
| ◆手形割引料にかかる消費税の扱いはどうなる?
◆勘定科目「手形売却損」での手形割引料の計上方法
|◆手形割引を依頼するときに役立つ「印紙税」の知識
◆手形割引の依頼で印紙代は必要になる?
| ◆受取手形を手形割引するメリット
◆手形割引の会計処理「対照勘定法」と「評価勘定法」の違い
| ◆銀行で手形割引をするときの金利の相場とは
◆手形割引の手数料は「支払い期日までの日数」で変わる理由
| ◆手形割引なら支払期日までの期間が長い手形を有効活用できるワケ
◆手形割引の審査での「限度額(極度額)」とは?
| ◆個人事業主が手形割引業者を利用する方法
◆ネットで手形割引を利用するときは信頼できるサイトを見極める!
| ◆銀行の手形割引審査を完全ガイド|通過する5つのポイントと落ちる理由を専門家が解説
◆手形割引の相場を調べる方法
| ◆手形割引は即日利用ができるケースもある?
◆手形割引で知っておきたい手数料の種類と相場について
| ◆金融機関と手形割引業者で支払い金利の相場が異なる理由
◆手形を担保にする手形割引の特徴
| ◆グループ企業での手形割引と短期借入金の知識
◆中小企業が手形割引を活用している背景
| ◆手形割引の手数料の注意点
◆手形割引と手形貸付の仕組み
| ◆仕訳をするときに知っておきたい手形割引の手数料の考え方
◆手形割引の取立手数料とは?取立依頼の方法について
| ◆支払期日が金融機関の休業日の場合の手形割引の日数計算と計算例
◆手形割引の入金までの流れ
| ◆手形割引で知っておきたい「根保証」の知識
◆手形割引を利用するときの必要書類について
| ◆手形割引とファクタリングの違い
◆わかりやすい手形割引のメリットとデメリット
| ◆銀行視点で考える手形割引の与信リスクとは
◆手形割引で知っておきたい要件を満たしていない「白地手形」について
| ◆利息制限法の内容と手形割引への適用について
◆手形割引業者によって手形割引レートは違う
| ◆手形割引は銀行が最適?専門業者との違いと自社に合う選び方を徹底解説
◆手形割引の勘定科目は「手形売却損」でOK!仕訳例と実務の注意点をプロが解説
◆手形割引の枠・受取額の計算方法|シミュレーションと極度枠の決まり方を解説
◆銀行と手形割引業者、どっちを選ぶ?【徹底比較】金利・審査の真実と賢い選び方
【でんさい】
◆でんさい割引(電子記録債権割引)とは|手形との違いや銀行手続きの流れを解説
◆でんさい割引で入った現金の仕訳方法
| ◆便利なシステム「でんさい割引」譲渡の流れは?
◆確定申告におけるでんさい割引の勘定科目
| ◆銀行でのでんさい割引の扱われ方
◆でんさい割引を利用することのデメリット
| ◆でんさい割引を利用することのメリット
◆でんさい割引だと金利は変わる?
| ◆でんさい割引の利用を開始するための手続き
◆でんさい割引を利用する際の手数料
| ◆でんさいを受取る側の企業が負担する手数料は?
◆受取手形もでんさいでやりとりすれば楽!
| ◆でんさいは受取っても領収書発行が不要!
◆電子記録債権(でんさい)の受取側のデメリット
| ◆でんさい手数料の仕訳における注意点
◆勘定科目はどうすればいい?でんさい手数料の扱い方
| ◆でんさいファクタリングの仕訳方法!
◆でんさいでファクタリングを行うことのメリット
| ◆でんさいファクタリングと他のファクタリング、手数料の違いは?
◆でんさいも不渡りが起きた際は遡求権がある!
| ◆でんさいの記録番号は「利用者番号×でんさいネットの固有番号」
◆でんさいの分割譲渡において記録番号はどのように使う?
| ◆でんさいの「管理番号」と「記録番号」の違い
◆でんさいの譲渡制限…解除や変更はできるの?
| ◆でんさいの譲渡記録はどう使われるものなのか
◆でんさいだと「譲渡担保」の仕組みは変わる?
| ◆でんさいを譲渡するときにかかる手数料と支払い方法
◆でんさいの分割譲渡を行う際の注意点
| ◆でんさいの分割記録の機能改善!分割記録が取り消せることの利点は?
◆でんさいの分割割引はスピーディーな資金化を可能にする!
| ◆でんさいでの貸付と紙での手形貸付はどのように違うのか?
◆電子手形と紙の手形の違いは?
| ◆便利な電子決済!手形割引は可能?
◆手形いらず!?でんさいファクタリングのココがすごい!
| ◆電子手形を割引するときは銀行にいきましょう!
986,792円+送付代金=ご送金金額